2025.02.18

2024年11月27日開催「SIP/BRIDGEフォーラム」イベントレポート【後編】

2024年11月27日開催「SIP/BRIDGEフォーラム」イベントレポート【後編】

2024年11月27日(水)、東京で「SIP/BRIDGEフォーラム」が開催されました。リアルとオンラインのハイブリッド形式で行われ、総数745名(対面276名、オンライン469名)からお申し込みがあり、日本が目指す未来社会「Society 5.0」へ向けた新たな発見と繋がりの場となりました。

『「未来社会」を知る。繋がる。体現する。』をテーマに、SIP/BRIDGE両分野のプログラムディレクターの講演やパネルディスカッションを実施し、参加者と登壇者が意見交換を行うことができる交流の場も設けられ、リアル開催ならではの温度感のあるコミュニケーションがみられました。

本レポートはイベントの様子とあわせて、各プログラムディレクターの研究内容や研究動機、目指す社会像について前後編でお届けします。

クロスコミュニケーション

課題/施策説明講演とパネルディスカッションの合間には、プログラムディレクターや各課題/施策関係者と参加者が対面でコミュニケーションをとる場も設けられました。軽食を片手に、より密な議論や人的ネットワークの構築が行われ、『「未来社会」を知る。繋がる。体現する。』というテーマの実現が見られました。

各PDが目指す、社会像と現在地

先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進
日本電信電話株式会社 先端技術総合研究所 常務理事 基礎·先端研究プリンシパル 寒川 哲臣

寒川 哲臣氏
原子や電子、光子など、とても小さな物質やエネルギーの単位である「量子」を使ってあらゆる社会課題を解決するための研究をしています。量子をうまく利用すると、既存のものをはるかに凌駕するテクノロジーが誕生します。しかし、膨大な量子を扱う技術の実用化には10~20年はかかる見込みなので、現在のプロジェクトでは少量の量子でも実装可能なものから着実に研究を進めており、具体的には量子技術を使ったセンサーの開発に力を入れています。例えば、量子を混ぜた薬が身体に取り込まれる様子をMRIで撮影してリアルタイムで薬の効き目を確認する技術、癌やアルツハイマーの血液診断バイオマーカーの開発などです。量子の特性は未だ解明されていないことも多いですが、世の中で使われるレベルまで引き上がれば大きなイノベーションが起き、あらゆる課題が解決に導かれます。量子技術で世の中に貢献したいという思いが、私たち研究者のモチベーションです。

包摂的コミュニティプラットフォームの構築
BACeLL法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士 石田 恵美

石田 恵美氏
誰も取り残されないように人と社会を繋げていくのが、私たちのミッションです。多様性が大切だと言われる社会の中で、それぞれの幸せを認め合うことが、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を最大化する鍵となっています。そこで私たちが考えているのが「包摂的コミュニティ」という新しいプラットフォームです。主な課題は、社会には多様な人いることを受け容れる「寛容性の向上」、少子化が進む中での「子育て世代や女性の幸福度向上」、「障がい者・高齢者の生きがい向上」、一人ひとりが主体的に自身の幸せについて考えて行動する「個人の自律性向上』です。現在は、AIを始めとしたデジタル技術を使った実験を進めています。例えば、遠く離れた家族とテレビを通じて簡単に話せる“デジタル同居”サービスや、妊産婦のためのオンラインコミュニティ等が開発され、実装された事例もあります。誰もが安心して暮らせる社会をつくるため、一歩一歩研究を進めていきます。

スマート防災ネットワークの構築
東京大学 地震研究所 災害科学系研究部門·部門長 教授 楠 浩一

楠 浩一氏
この研究では、災害時に自衛隊、消防、警察、行政などの関係機関がネットワークを使って情報を即時共有し、救助や復旧の効率を上げることを目指しています。「どこで助けが必要か」や「どの道路が通れるか」といった情報は、これまで現場でホワイトボードに書いて共有する方法が一般的でした。しかし、ネットワークがインフラとなった今、新しい防災システムが求められています。開発中の「スマート防災ネットワーク」は既に訓練において導入されており、関係機関が入力した被害情報を府省庁の垣根を越えて共有できるところまできました。さらに研究が進めば、衛星画像や家電に組み込まれたセンサーを使うことで、より正確な被害状況を把握したり、個人に最適な避難ルートをスマートフォンで知らせたりすることができるようになります。いつ大きな災害が起きるかは、わかりません。「一人でも多くの人を救いたい」という強い思いで、早急に研究を進めています。

スマートインフラマネジメントシステムの構築
東北大学大学院工学研究科インフラ·マネジメント研究センター(IMC)センター長 久田 真

久田 真氏
道路、橋、上下水道といった私達の暮らしを支えるインフラの老朽化が進み、実は日々の安全が脅かされているといった現状があります。加えて、昨今頻発する災害に耐え得るインフラも求められるようになりました。同時に、建設業に携わる方々の高齢化に伴い、深刻な担い手不足も課題になっています。私たちは、そうした課題をデジタル技術で解決するシステムの構築を研究しています。具体的には、建設作業を自動化したり、修理や点検といった維持管理の効率を良くしたりして、少人数でも対応できる仕組み作りを行っています。また、持続可能な社会を目指し、環境に配慮したインフラに置き換えていくにあたり、自然の力を活用する「グリーンインフラ」についての研究も進めています。普段はあまり意識しないかもしれませんが、安全で快適なインフラが幸せに暮らせる社会を実現しています。こうした幸せを支える未来の街をつくることが、私たちの大きな研究動機です。

<文・石野 志帆/写真・曽川 拓哉>

内閣府の
科学技術・イノベーション
に関する取り組み

科学技術イノベーションこそが経済再生と持続的成長の原動力です。科学技術イノベーション政策を強力に推進し、日本を「世界で最もイノベーションに適した国」としていくことが、今、必要とされています。激動する世界情勢や環境変化のなか、グローバル課題への貢献と国内の構造改⾰という両軸を、どのような政策で調和させることができるのか。日本が目指すより良い未来社会「Society 5.0」の実現に向けた新たなイノベーションへの発展に取り組んでいます。